私たちの研究室では,創設以来プロジェクト参加型の実践教育を進めています.研究室の学生諸君は,衛星設計コンテスト,ARLISS(アメリカの砂漠にてモデルロケット打上げ,探査ロボット実験),UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)などの活動に参加し,プロジェクトを実体験することによって,多くのことを学んでいます.
●衛星設計コンテスト
「衛星設計コンテスト」とは,全国の大学院,大学及び高等専門学校等の学生を対象に,宇宙ミッションに関わるフィージビリティー・スタディ(ミッション案の概念検討およびその詳細設計)を競うコンテストです.「設計の部」では実現しようとする衛星システムの設計の完成度が問われ,「アイディアの部」ではミッションの独創性・有用性が問われます.第1回コンテストで入賞した「鯨生態観測衛星」は,2002年にH-IIA4号機で実際に打ち上げられています.
私たちは,1996年の第4回コンテスト以来,毎年コンテストに参加し,以下の各賞を受賞しています.2003年からは,東北大学大学院理学研究科の学生諸君と力を合わせて本格的な理学観測ミッション衛星を設計し,設計部門に挑んでいます.
1996年 宇宙構造物外壁点検マイクロロボット(The Space Worm):アイディア大賞
1997年 ありじごく型惑星堀削ロボット(The Antlion)
:アイディア大賞
1998年 The Jumping Turtle 〜微小天体上を移動探査するロボット〜:
アイディア大賞
1999年 BottleSat(B-Sat)による流星群の立体観測:アイディア大賞
2000年 The TAKO (Target Collaborativize)-Flyer
(ターゲットを協力化させる衛星回収システム)
:アイディア大賞
2001年 LEOLEO (Leonid-meteor Observer in Low Earth Orbit)-Ⅱ 〜小型衛星を用いた軌道上からの流星群観測〜:設計大賞
2003年 PIKA-SAT
(Physical Investigation for the Keystone of Atmospheric-electricity):地球電磁気・地球惑星圏学会賞
2004年 惑星電波干渉計衛星システム (J-mini):日本航空宇宙学会賞
2005年 地球大気流出観測衛星 (O-plus) :設計大賞
2006年 雷放電発光現象観測衛星 (LAISIN) :日本機械学会宇宙工学部門表彰フロンティアの部
●ARLISS プロジェクト
ARLISS (A Rocket Launch for International Student Satelliets) は,学生が製作した 350g 級 (CanSat Class) もしくは 1kg 級 (Open Class) のペイロード(衛星モデル)を米国のアマチュアロケット協会の固体ロケットを使って上空 4000m まで打上げ,パラシュート降下中もしくは軟着陸後に所定のミッションを行うフライト実践活動です.毎年,米国ネバダ州ブラックロック砂漠にて実施されています.
2002年より,地上にあらかじめ設けられたゴールへの到達距離を競う「カムバック・コンペティション」が行われるようになりました.ゴールへの到達方法は,パラシュート降下中に飛行制御を行ってゴールへの着地を目指す Fly-back アプローチと,軟着陸後に地上を走行してゴールへの到達を目指す Run-back アプローチに大別されます.私たちは,同ミッションを超小型ロボットによる惑星探査技術の模擬実験と位置づけ,Run-back アプローチへのチャレンジを続けています.
「カムバック・コンペティション」では,ペイロードは完全に自律でゴールに到達しなければなりません.また,制御履歴のデータを残さなければ失格になります.これは,偶然によるゴールを排除するためです.位置の認識にはGPSが強力な武器となります.しかし,Open Class(大きいほうのカテゴリー)でも全重量が 1kg に制約されています.わずか 1kg の中に,GPS受信機はもちろんのこと,制御用アクチュエータ(走行用モーター),制御用計算機,バッテリー,パラシュートなど全ての装備を搭載しなければなりません.しかも,およそ10Gにも達するロケットの打上げ加速度に耐えなければなりません.このミッションを達成するためには相当のエンジニアリング・スキル(技術力)が必要です.このコンペティションは,米国DARPAのグランドチャレンジにも匹敵する難易度の高い競技会だといえるでしょう.

2002年 初チャレンジ:学生たちがユニークなロボットを完成させました.1km 以上の地上走行能力はありましたが,コンペでは残念ながらパラシュートが開かずに自由落下してしまいました.

2003年 2度目のチャレンジ:マイクロローバーとしてはほとんど完成の域に達しました.しかし衝撃による電源の瞬断のために,着地後に微動だにせず.電源リセット(コンテストとしては失格)の後は約3kmの道のりを走りぬきました.

2004年 3度目の正直を目指したのですが,またもやパラシュート・トラブル.この年は,脚型ロボットにもチャレンジしましたが,キロメータオーダーの距離を移動するのは無理なようです.

2005年 4度目のチャレンジでついに優勝しました!(記録 222m)
UNISEC公式ページ
ARLISSへの挑戦(荘司知弘氏制作ビデオ)(MPEG 118MB)
川島レイのレイランド
2006年 5度目のチャレンジで1位2位を独占しました!(記録 6m & 44m)
UNISEC公式ページ
東北大学工学部・工学研究科ニュース
詳細についてはこちらをご覧ください
(せきぐちーむ,玄孫チーム)
ARLISSカムバックコンペティションの様子は仙台放送「シリーズ東北大学100年物語」でも紹介されました.
2006年のARLISSローバーチャレンジは,東北大学大学院の授業「航空宇宙フロンティア」の一環として実施されました.同授業の概要とローバー開発秘話が瀬名秀明氏によるインタビュー記事「瀬名秀明がゆく・シリーズ10」に紹介されました.

●UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)
UNISECとは,大学・高専学生による手作り衛星やロケットなどの実践的な宇宙工学活動を支援することを目的とするNPOです.衛星設計コンテストに参加してきた常連研究室,ハイブリッドロケットの打上げを目指すグループなどが核になって,2002年に結成されました.学生の手で小型衛星を作り打ち上げることなどを目指して,近年参加メンバーの裾野が広がりつつあります.上記のARLISSプロジェクトへの学生派遣もUNISECの活動の一つです.UNISECの活動にご興味をお持ちいただきましたら,どうぞ下記のページを訪問してみてください.
