小惑星サンプルリターンミッション MUSES-C 「はやぶさ」 サンプリング方式の検討とタッチダウンムービー |
Here in English ! 世界初の小惑星サンプルリターンを目指した探査機 MUSES-C が,2003年5月9日, 鹿児島県内之浦町の文部科学省宇宙科学研究所・鹿児島宇宙空間観測所より 無事に打ち上げられ,「はやぶさ」と命名されました. この探査機は,小惑星 1998SF36 の表面にタッチダウンし,岩石サンプルを採集し, 地球へ持ち返るというたいへんチャレンジングなミッションを行います. ターゲットである小惑星 1998SF36 は,大きさが最大でも 500 m 程度の非常に 小さな天体であり,地球や月・火星などの大型天体のように熱変成や地殻変動を 受けていない可能性が高く,太陽系創生時の組成をそのまま保っていると考えられ ます.そのような天体から,わずか1グラムに満たない量でもサンプルを持ち帰る ことができれば,私たち太陽系に関する知識を大いに深めることができます. 「はやぶさ」の到達目標である小惑星(25143)1998SF36は,2005年8月,日本のロケット開発の 父である故糸川英夫博士にちなんで「ITOKAWA(糸川)」と名づけられました. M‐V 5号機/はやぶさの打ち上げについては, こちらをご覧下さい. 探査機「はやぶさ」の最新情報については, JAXA 宇宙科学研究本部のページに紹介されています. 「はやぶさ」では世界に先駆けて小天体に対するサンプルリターンを実施するために, 以下の4つの大きな技術開発が行われました. 東北大学 吉田研究室では,上の3つめの課題・小天体からのサンプルの 採集技術について, 計画当初から検討ワーキンググループに参加し,サンプル採集の方式の検討と決定 に関わり,また小惑星表面への降下,接地,上昇の各フェーズにおける ダイナミクスと制御シミュレーションの詳細検討,および,さまざまな 機会を使って検証実験をおこなってきました. また,サンプル採集のためのプロジェクター(小惑星表面を破砕する小型の銃)は, 東北大学 流体科学研究所 高山研究室を 中心に開発が進められました. サンプル採集方式に関する技術メモ
探査対象の小惑星の表面の様子は,その場に到着してみるまでよくわかりません. そこで,表面の固さ,傾斜,滑りやすさの度合いについて幅広い可能性を仮定し, 仮定した範囲内であれば,どのような状況であっても確実にサンプルを 採集することができ,また探査機がひっくり返らずに無事に帰還できる条件を 実験と計算機シミュレーションの両面から検討しました. 実験には,垂直落下するカプセルの中で微小重力状態を模擬する実験や, 下図のように,実際に探査機に搭載するサンプラ−ホーンという部品と 小惑星表面の相対運動を模擬する装置(宇宙研・宇宙ロボットシミュレータ)を 用いた実験を,多数繰り返しました. (タッチダウン試験について:ISAS News No.229 より)
小惑星の表面から安全に離脱するためには,ガスジェットスラスターと呼ぶ小型の エンジンを噴射します.しかし,サンプルの採集が完了する前にエンジンを 噴射してしまうと,貴重なサンプルを噴射ガスで汚染してしまいます. そこで,小惑星表面への接触(タッチダウン)の検出と,エンジン噴射のタイミング,そして探査機の運動との関係を慎重に検討し,安全性の高い条件を求めました. 下に,検討の結果得られた,典型的なサンプル採集の状況の コンピュータグラフィクスを示します. (図をクリックすると動画がスタートします.)
[ムービー一覧] ここに示すグラフィクスは,単なるイメージアニメーションではありません. 私たちが現時点で予測できる最大限の知識に基づいた仮定のもとで,力学的に 起こり得る運動を厳密に評価したものです. 小惑星表面に接触している時間は,わずかに1〜2秒程度です.採集されるサンプルは わずかに数グラム程度です. しかし,このわずか1秒の表面滞在と地球帰還の経験が,そして,わずか数グラムの サンプルが今後の小惑星,ひいては太陽系全体の科学に非常に大きな進歩を もたらすことができると,私たちは考えています.
:::MUSES-C勝手に応援ページ::: 付録 三菱電機サイエンスサイト・DSPACE にて,私たちの研究内容が紹介されています.吉田教授が女性ナビゲータのインタビューに答えるかたちで,宇宙ロボット研究の内容を紹介します.実験の様子を紹 介する動画や,私たちが研究用に作ったシミュレーション動画も,ふんだんに使われ ています. 2003年4月第4週放映分 では,重力が非常に小さい小惑星表面で探査を行うロボットについて紹介します. また, 2003年5月のゲストは宇宙研の矢野 創さんです. 小惑星探査の意義,MUSES-Cの特徴,MUSES-Cの技術などについてお話しされる 予定です. |